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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)3470号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕転貸を理由とする賃貸借契約の解除において、転貸が背信的行為と認めるに足らない特別の事情があるかどうかを判断するについて、契約解除の意思表示後に転借人が家屋から退去した事情をもしん酌することができる。

〔判決理由〕つぎに被告は右転貸をもつて原告に対する背信的行為と認めるに足りない特別の事情があると主張するので考えてみる。ところで本件賃貸借において賃借物件を第三者に転貸したときは催告を要せず賃貸借契約の解除ができる旨の約束があつたことは、当事者間に争いがないが、しかし、かような特約をした当事者の合理的意思を探究してみると、このような場合に賃貸人に解除権を肯定したゆえんのものは、賃貸借が個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、とりわけ賃貸人の承諾のない転貸によつて賃貸人の予想しえない第三者が賃貸借に入りこむことになるから、賃貸人の無断転貸行為は賃貸借における継続的信頼関係を破るような不信行為と一応推定され、かような賃貸人に引続き賃貸借上の賃貸人の義務を負わせることは酷でもあると認められたがためであることにあつて、結局無断転貸の場合に解除権を認めた民法第六一二条の法意と異なることはないと解するのが相当である。したがつて、また民法第六一二条の法意からいうと、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をもて賃借物の使用収益をなさしめた場合であつても、賃借人の当該行為が賃貸人に対し背信的行為と認めるに足らない特別の事情がある場合においては解除権は発生しないものといわなければならない(最高裁昭和二八年九月二五日判決民集七巻九七九頁参照)。

そこで本件の場合をみるに、前示甲第二号証、証人野呂道雄、同谷川初子(ただし一部)の各証言、原告(ただし一部)および被告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、「被告は昭和三一年一〇月二九日原告から本件家屋全部を賃借したものであるが、元来、原告は彦根市に在住し、本件家屋を被告に賃貸する以前にも他に賃貸していた。被告は本件家屋の賃借にさいし、原告に対し、敷金一〇万円を交付したし、賃借後も約定の賃料の支払いを遅滞するようなことはなかつた。そして、また、被告は本件賃貸借の当初、原告から、年に四回、当時原告の息子寿男が子役として歌舞伎に出演するため大阪市に滞在しなければならないので本件家屋の二階に泊めてもらいたい旨求められてこれを許容していたところ、昭和三一年頃から一年半程、引続き、原告の妻初子と寿男が本件家屋の二階に居住し、寿男がここから大阪市内の小学校に通学することになつて、被告はこの間本件家屋全部を使用できない事態にもなつたが、しかし、しばらくは、被告において、食費の支払いを受けてしたにせよ、母子の食事の面倒をみたことさえあつた。こうして、被告は、野呂に対し本件家屋のうち二階の六畳間を転貸したが、右転貸には、前記のように被告と野呂の双方にのつぴきならない事情があつたものであり、また、転貸したのは右二階の六畳間一室にかぎられ(炊事場は共用としたが)、これによつて、被告がとくべつ不当な中間利益を得ようとしたわけのものでなく、しかも右転貸を原告から咎められるや早々に打切り、野呂において本件家屋を退去したので、同人の本件家屋の入居期間はわずか四カ月余にすぎなかつた」以上の事実を認めることができる。右認定に反する証人谷川初子の証言および原告尋問の結果は、採ることができないし、他に右認定を覆元すに足る証拠はない。右認定によると、被告の野呂に対する本件家屋のうち二階の六畳間の転貸は、賃貸人である原告に対し、とくべつ不利益を与え、これによつて、一般の賃貸人として賃借人に対し将来の信頼関係に危惧の念を抱かしめるまでのものとは解されないから、被告の右転貸をもつて、本件賃貸借における信頼関係を破壊するものということはできず、結局、背信的行為と認めるに足りない特別の事情があるものといわなければならない。

なお、野呂が本件家屋から退去したのは原告の被告に対する本件賃貸借契約解除の意思表示の後であること明らかであるけれども、解除後の事情も右特別の事情の判断にしん酌できるものと解するから、右の事実も前示認定を妨げるものとはいえない。(坂詰幸次郎)

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